生産性向上の愚直な戦略
■先週、顧問先の会社で、来年の経営計画につい
て社長と話していた時、営業利益率が3%とお聞
きした際、反射的に「もう少し上を目指しましょ
う。できれば営業利益率10%以上を。」
と申し上げました。
この会社は、創業以来着実な成長をつづけ、年商
100億円が射程距離に入る会社です。
しかし、現在のように物価やコストが上昇し続け
る「インフレ下の経営」においては、単に「売上
を上げよう」という精神論だけでなく、より視野
を広げて経営を俯瞰することが極めて重要になり
ます。
今回は、この環境下で企業が生き残り、発展する
ために必要な視点について共有したいと思います。
■下の表は2022年からの賃金上昇率とインフレ
率の一覧です。2024年度の賃金上昇率(春闘)は
5.09%に達し、2025年度はさらに5.52%と予測さ
れています。
インフレ率(CPI前年比)も2.5%〜3.2%程度で
推移しています。
このデータに基づき、今後の経営を堅実に予測す
る場合、賃金上昇率は最低でも5%、その他経費
も3%程度の上昇を想定する必要があるでしょう。
■それでは、このコスト上昇に対して売上や粗利
益率が据え置かれた場合、企業収益はどうなるで
しょうか。
下の表(「インフレ下無策の損益計算書」)は、
現状の売上高10億円、営業利益率3%(3千万
円)の会社が、売上と粗利益率が変わらない前提
で人件費率が毎年5%、その他販管費が毎年3%
上がり続けた場合のシミュレーションです。
その結果、3年後には営業利益がわずか3百万円
にまで減少し、おそらくその翌年からは赤字に転
落することがわかります。
■これからも、あらゆる経費は上がり続けます。
そして、人財争奪戦はますます激しくなり、一人
あたり、時間あたりの賃金も上昇し続けるでしょ
う。
このような環境下でも、会社を守り、発展させて
いく処方箋は、本欄で何度かお伝えしている
「労働生産性の向上」です。
労働生産性は下表のように、従業員数、付加価値
(粗利益)額と率、労働時間であらわすことがで
きます。
つまり、労働生産性を上げるということは、
「働く人一人当たりの粗利益(付加価値)を
いかに上げるか」という課題に、組織全体で取り
組むことになります。
■では、いかにして労働生産性を上げるかという
課題に対して、一般的には技術・設備(ハード面
)への投資としてデジタル化や最新設備の導入。
人財・組織(ソフト面)への投資として、人財育
成や評価制度の見直しなどを行っている会社が多
く見受けますが、よい結果に繋がっている事例は
少ないようです。
労働生産性という課題に対して、私たち中小企業
がまず行うことは、土台の徹底です。それは、
5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)、
それに伴う業務フローの見直しです。
冒頭でご紹介した会社では、その後、作業指示書
にかんする業務フローの見直しを含む、3つのテ
ーマについて、社長以下、幹部で合議し具体的改
善策を実施中です。
■会社によっては、離職率を下げる取り組みが、
採用~育成にかかる時間と経費を圧縮し、熟練者
のスキル流出を防ぎ、労働生産性を上げる有効な
手段である場合もあるでしょう。
インフレ環境下での企業経営に、派手な成功法則
は不要です。
私たちが注力すべきは、5Sや業務フロー見直しと
いう、一見面倒でも本質的な作業を確実に実行し
続けることです。
この「現場力の徹底強化」こそが、最新の技術や
優秀な人財の能力を活かしきるための揺るぎない
基盤となります。
一つ一つの地道な改善を未来への投資と捉え、
3年後に「利益体質が変わった」と実感できる
成果を目指しましょう。
以上、最後までお読みいただき、
ありがとうございました。
今日も、皆さまにとって、
最幸の一日になりますように。
日々是新 春木清隆
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私たちは、何度も繰り返してやっていることの集大成である。
それゆえ、優秀さは行為ではなく、習慣である。
アリストテレス(哲学者 前384~前322年)
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